「いつか王子駅で」

先週本屋で文庫本のきれいな表紙と、タイトルのユルさに惹かれて購入していた堀江敏幸氏の「いつか王子駅で」という本を読みおえた。

いつか王子駅で (新潮文庫)

いつか王子駅で (新潮文庫)

いきなり驚いた。最初の文が1ページつづく。そしてそれが一段落。妙に修飾や形容が多く、それを一つの文につなげた形の文学作品。
このblogを見ると分かるように、自分が好んで読むのはミステリー作品で、しかも理系的であればなお喜ぶ、という方向性なので、自分からこういう文学作品を手にすることは珍しい。
しかしこの最初の文でこの本のスピード感がつかめたので、あとは堀江氏の書く文字に身を任せて、最後まで楽しく読むことが出来た。
本作品、とにかく形容表現が美しい。
たとえば、『つまり「僕」が不器用に見えながらそのじつ複雑な感情の張力をあやつって「独り」の状況をつくりだしていく手際に惹かれるのとおなじく、』という文章。
感情の張力、という言葉にぐっと来る人は読んだ方がいい。
内容は、食べ物の表現がよく、読了後にカステラを食べたくなる本でした。
さまざまな文学作品が登場するのも本作品の特徴となり、主人公「私」の特徴となっている。
これらに目を通した後本作を読むと、堀江氏の描く空気をさらに感じることが出来るかもしれない。
島村 利正「奈良登大路町・妙高の秋」(残菊抄)
安岡 章太郎「サァカスの馬」
徳田 秋声「あらくれ」
瀧井 孝作「松島秋色」
奈良登大路町・妙高の秋 (講談社文芸文庫)
サアカスの馬・童謡 (少年少女日本文学館20)
あらくれ (岩波文庫)
松島秋色 (講談社文芸文庫)