「未来形の読書術」
雨が降り、本を手にした
先日、吉祥寺に行ったときのこと。アーケードをぶらぶらしていたら、突然の豪雨で、そのアーケード内から出られなくなった。いくつかの店があるし、しばらくすれば雨もやむだろう、と思って本屋に入った。
ところが雨はなかなかやまない。いつまでも立ち読みしていてもしょうがないので、本の1冊でも買って、喫茶店で時間をつぶす方がよいかな、と、あえて普段買わなさそうな本、それでいて読みやすさがある新書を買おうと決めて、選んだのが、石原千秋の「未来形の読書術」。
買って外に出たら雨がやんでいたのは、あまり面白くないオチでしたが。
- 作者: 石原千秋
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 新書
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新書と言うと8割方は内容が浅いイメージなのですが、この本はアタリで、太く、深く、短くの良書です。
「落ち着いて本を読む、とは」、という入りやすい入り口をくぐると、一気に、石原氏の広く深い知識によってぐんぐんと掘り下げられていきます。
様々な引用と、深い考察が次々と重ねられ、知的興奮を刺激されつつ、それが、ウッ、と息が苦しくなったところで章が変わり、また違う視点から「読書」を掘り下げていく繰り返し。
これがとても心地よく、新書という文字数もあって、「ちょっと物足りないかな」と思うタイミングであとがきがあり、本書で引用した書籍のリストと、石原氏の解説がちょっと載っている。
まるで懐石料理のような、とてもすばらしい構成。
本書の流れ
第1章は「本を読む前にわかること」というタイトルで、「なぜこの本を読んでいるのか」をフックにして、読書が人に与える影響から、言語論、言葉に関する哲学的な主張にまでたどり着く。この流れと、この章の終わり方がとても鮮やか。
第2章で、小説の仕組みを解説し、そこから小説を読むときの読者のことを述べ、第3章の読者が読書中に行う仕事について説明を続けている。第4章では、評論と読み方について書いているが、ここまでの3章と比べたらちょっと付属的な内容に過ぎない。
全ての主張が非常に論理的に述べられているので、読み進めている間は納得の連鎖となり、それがこの本の読みやすさとなっているのだろう。決して簡単な表現だけではないのに。
内包された読者
「内包された読者」と実際に読んでいる読者としての自分、その距離と位置の意味、等、今までも本を読んでいる間は、なんとなく考えていたことだ。特に、その本が読みにくければ読みにくいほどそのような思考が入っていた。そのあたりのモヤモヤしていた思考が石原氏の解説によりスッキリした。
そのあたりの理論がしっかりしている石原氏だからこそ、この読みやすい本書が出来上がったのではないだろうか。
本書は、決して楽な読書法を探している人向きではない。
しかし、本を読むことによって、人の何が変わり、何を変えようとして人は読むのか、また何かを変えるために読むにはどのような読み方をするべきか、そのようなことを知りたく、考えたい人は読むべき一冊である。