「月は幽咽のデバイス」

森博嗣のVシリーズ3作目「月は幽咽のデバイス (講談社文庫)」を読み終えた。

月は幽咽のデバイス (講談社文庫)

月は幽咽のデバイス (講談社文庫)

この既成概念、固定観念を揺るがす感じ、まぁミステリとはもともとそういうものなのですが、森作品は特に理系的視点で切っていく感じがつよく、この作品は、最近読んだ中では一番森作品らしいと思った。
いきなりエピローグから引用させてもらうと、こんな文章がある。

このように、人がなした行動でさえ、無意識、無意図のものが存在する。
人は常に理由を持って行動するのではない。
それにもかかわらず、常に理由を探そうとする。

そう、あらゆる状況はただの状況でしかなく、意図を感じるのは人間であり、そしてそれは受け手が勝手に感じているだけのことである。
それを考えると、確かに話の最後は気持ちよく終わる。改めてすごいなぁ、と、S&Mシリーズで感じた楽しさを思い出した。
この作品はそんな感じで森作品の良い感じを強く感じられる良作であるが、しかしそれ以上に良いのはこのタイトルである!
読み終えたあとに改めてそれを見ると、とにかく美しい。
文字の並びが美しい。
英単語の並びが美しい。
そういう美しさを、文字の表現や、人物の心理状態に、月夜に照らされた水面のごとくキラキラとちりばめるのが、森作品の特徴だと思うのだが、この作品の場合は、人物の心理状態の描写がいい。
log関数のごとく、最後に盛り上がってくる。
すべてがFになる」に並ぶ作品かもしれない。
あー、楽しかった。